*ESL:Electrostatic Levitation
静電浮遊法
静電浮遊法は、帯電させた試料と試料周囲に配置した電極との間に働くクーロン力を利用して試料を浮遊させる方法です。この方法では、試料の位置を検出してそれに応じて電極間の電圧を調整する高速のフィードバック制御が必要となります。
fig.1のように、レーザー光を用いて試料の影を位置 センサーに写して試料位置を検出し、コンピュータでPID計算を行って電極間の電位を調整しています。浮遊した試料に加熱用レーザーを照射することにより容器を用いることなく、試料を溶融することが可能です。金属は液体状態で化学的な活性が高く、容器と容易に反応してしまいます。こうした試料の研究には、静電浮遊法による無容器溶融が有効です
また、浮遊試料は容器からの核発生が起こらないため、融点以下の温度でも液体状態である過冷却状態を長時間維持することが可能となり、過冷却液体の研究が可能となります。
静電浮遊法により浮遊溶融した試料から様々な熱物性が計測可能です。詳しくは[ 液体構造と熱物性の研究 < 静電浮遊炉における熱物性計測 ]の項をご参照ください。
地上用静電浮遊炉
地上で重力に逆らって試料を浮遊させるためには、高電圧を電極間にかける必要があります。電極間の放電を抑えて高電圧をかけるため、実験は高真空もしくは高圧で実施します。一般的に、金属や合金などを溶かす時に酸化を防ぐには、高真空にするか、不活性ガス雰囲気で実験を行ないますが、不活性ガス雰囲気では容易に放電が起こるため地上用静電浮遊炉の実験では用いることができません。一方、試料が酸化物の場合は、高真空では酸素が試料から抜けてしまうので、これを防ぐために高圧の窒素もしくは空気の雰囲気で実験を行います。
1. 高真空型静電浮遊炉(VELF)
金属・半導体等、試料の酸化が問題となる試料は、高真空静電浮遊炉(VELF)を利用します。10-5Pa程度の高真空中で直径約2 mmの金属・合金をクーロン力を用いて浮遊させ、高出力レーザーを用いて加熱溶融するもので、浮遊溶融させた試料の熱物性値の測定や過冷却状態からの凝固実験が可能です。加熱は、水平3方向からの炭酸ガスレーザー(200W)と上方からのNd:YAGレーザー(500W)を用いて行います。これまでに、金属元素中最高の融点を持つタングステン(融点約3400℃)を初めとする高融点金属の溶融に成功しています。
静電浮遊炉観察系(fig.2-2)
Fig.1のHe-Neレーザー/位置センサによる試料位置検出系を2軸に配置して、3次元の試料位置検出を行っています。上下の電極に加えて、小さな電極を配置して水平方向の位置制御を行っています。試料の加熱は、水平3方向から炭酸ガスレーザー(波長10.6mm、最大出力200W)を照射して行います。2500℃程度まで金属はこれで加熱できるのですが、更に高温にする場合は、上電極に開けた穴を通して上方からYAGレーザー(波長1.06mm、最大出力 500W)を照射します。試料温度の計測は通常2台の放射温度計で行っています。放射温度計は、観察したい試料の温度に応じて複数台を切り替えて使用しています。また、試料の拡大観察用のカメラを複数台配置しています。
電極の詳細(fig.2-3)
両電極の距離:10mm
電極面の直径:30mm
浮遊試料の直径:2mm
2. 加圧型静電浮遊炉(PELF)
酸化物など試料の蒸発による組成変化が問題となる場合は、加圧型静電浮遊炉を利用します。基本的な構成は、高真空静電浮遊炉と同様ですが、加圧型静電浮遊炉は4.5 気圧の雰囲気下で試料を浮遊させます。
炉の材質はステンレス。観察用の窓は6個。下電極中央にガスジェット浮遊炉を備えています。
【圧 力】 4.5 [ atm ]、空 気 (Air)、N2
【電 圧】 10~20 [ kV / cm ]
ISS搭載用静電浮遊炉(ISS-ELF)
ISS搭載用静電浮遊炉(ELF)の開発とJAXA検証ミッションに協力しています。ISSに搭載する装置は、高い安全性・信頼性、軽量かつ省スペースの設計が求められるため地上の装置とは異なるノウハウが必要なので専門のメーカーが開発します。しかし、そこに盛り込まれる数々の要素には、本研究室での地上用装置の技術研究成果が反映されています。例えばISS-ELFに採用された位置センサーや熱物性測定機能は、本研究室で開発した方法が用いられています。
また、ISS実験に向けた試料の適合性検証やフライト用試料の作製に本研究室の装置が使用されています。
静電浮遊炉(ELF):「きぼう」での実験